ブラックボックスのキャリア観

失われた何十年かは知らないが、
バブル崩壊は成果主義を台頭させ、
自分だけができる業務システムの構築を正当化した。
当時のビジネス系の新書でもそういう論調が流行した。

専門性を深めること自体は良いことだ。
その代わり、専門性にこだわり続けること、
秘匿性を開示しないことは長い目でマイナスになる。

バブル崩壊で痛い目を見た人には怖いとは思うが、
自分が極めたブラックボックスを鍵のかかった宝箱とはせず、
その「鍵」を周りの人にも配ることで評価されることも知ってほしい。
本エントリーはそんな想いから作ったものだ。

専門性が否定されてはいけない

わたしの経験を話す。
今のわたしが働く場所は、いわゆる文系の人が大多数だ。
その中では、わたしは理系のルーツを持つ少数派に属する。

理系の人間からすると、ループ計算は日常茶飯事だ。
計算結果の一部が計算条件に戻る構造をしていることはよくあることで、
シミュレーションではそれらの一致・収束を目指す。

この、「いつものループ計算」が割と最近、否定された。
よく分からないから採用できない、とのこと。まじですか。

さらに、「お前の専門性はここでは発揮するな」とまで言われた。
性的マイノリティ的なグレーな要望を押し付けているわけではないのだから、
あの程度は受け入れてほしかった。だが、ダメだった。

数式も、構造も、手順も、ループ計算の必然性も、全て示した。
それでも、否定された。採用されなかった。上司すらも賛同しなかった。
じゃあなぜ、この業務にわたしをアサインした。

…個人的な感情はともかく、開示できる専門性は否定されるべきではない。
本人の努力を否定することに直結しかねない。

専門性とは、世の中のあらゆる分野にあり、
それぞれが発揮されるから、この世界は何とか回っている。
発揮されずに引きこもっている知識ではない、実学としての智恵を指す。

自意識過剰になってはいけないという警告は承知しているが、
世界を回すための専門性を、理解できない一点で否定するのは、
極めて退廃的な行為だと、わたしは考える。

「自分だけできる」という牢獄

専門性は開示されるものであれば肯定されるべき。
このスタンスは、非常に重要な示唆を持つ。

裏を返すと、開示されない専門性は否定される。
論文も、査読や検証を経てようやく受け入れられる。
主張の異なる論文が複数あるという矛盾した実情もあるが。

専門用語でまくし立ててけむに巻く行為は厳に慎まれるべきで、
少なくともシステム(※雑にまとめた表現である)の運用に際し、
協議ができる程度には知識レベルが揃っていないと話にならない。

自分だけができる、というのは短期的には優越感がもたらされる。
それを秘密にすることでマウントを取ることも可能だろう。
嫌な言い方をすれば、勝てる喧嘩に相手を引きずり込める。

しかし、それは長い目でマイナスを当人にもたらす。
秘密主義の人間など、信用に値しない。
過度な隠し事をする人物を評価しようと思わない。

これは、専門性以前の人間性の問題でもある。
極めて狭いコミュニティに属して「常識」がバグった状態だ。
「○○界隈」と薄気味悪く形容される所以でもある。

この世の中で、専門性の幅・ジャンルが細かすぎるのは理解する。
余計なものを捨てて必要なものだけ極めたい気持ちも分かる。その方が気楽だ。
だからこそ、理解しあう努力が双方に求められる。

ブラックボックスを監視下に置く

矛盾する表現だが、ブラックボックスは誰でも使えて、
なおかつ、更新できるものであるべきだ。

ブラックボックスになっていないシステムでも、
過去の特定の時代に作られたものは、将来のイレギュラーを想定しない。

一方で、新たな想定外への対応を加えるには、
既存のシステムを理解することが先決である。
半端な継ぎ足しを繰り返すと、指数関数的に想定外が増える。

だからこそ、専門性を持つ人物には、開示が求められる。
先行してブラックボックスを含むシステムを作るのは仕方ない。
時間を優先すると、製作者しか分からない部分は確実に発生する。
説明資料を作っても、本人しか読めない構成になりやすい。
気づいたときには巨大なブラックボックスが完成している。

だからこそ、ブラックボックスを日々監視することが重要となる。
コミュニケーションの一種と言われればそれまでだが、
上司でなくてもよいから、システムを使える「あなたの分身」を作ろう。

あなたは、1つの業務を延々とやり続けることはないだろう。
そんな暇人を養う余裕は、社会全体で失われている。
1つ何かが完成すれば、次の何かをまた作ることになる。

その「1つの完成」の少し前に、隣の仲間に託そう。
最低限の動かし方を示すまでで十分だ。

あなたが作ったシステムを、全くの素人が使うと、
想定しなかった使い方や、暗黙の手順が浮かび上がり、補完ができる。
積み上げていけば、あなたの作品を高解像度で理解してくれる。

専門性を活かすとは、このような潰しこみが含まれるのだと感じている。
煩わしいと思わず、細かな知見の共有をお願いしたい。

結び

わたしの経験の話に少し戻るが、
ループ計算程度で専門性を語るのは本来はおこがましい。
スプレッドシートのテクニックで片付く話だ。

偉そうにエントリーを書きなぐったが、
わたしが真の意味でブラックボックスを監視下に置けていたか、
客観的に判断することは当事者である以上不可能だ。

不可能という前提に立つならば、
なおさら、仲間との協働が大事という話になる。
専門性に「引きこもる」と、これは極めて困難になる。

ゆでガエルでもタコツボでもサイロでも何でも構わないが、
居心地の良いコミュニティに長期間入りびたることの危険性と、
専門性の有効な発揮は表裏一体だ。

異動というものを前向きに定義することも含めて、
専門性の極め方、発揮する場所を考えるきっかけとなれば幸いである。

コメント

タイトルとURLをコピーしました